「好きって言う気持ちは、相手のことを忘れるまで続くんだよ、知ってた?」
本心から言った言葉。
そして、今も気持ちは変わらないと思っている―……
東京都渋谷区、道玄坂。
道玄坂の一角にあるビルの2階にSPRはある。
そこでバイトをしている調査員、谷山麻衣は本の整理をしていた。
安原はパソコンにデータ入力をし、リンは部屋に篭っている。
と、その時所長室が開いた。
若干十代にして所長である渋谷一也、通称ナルが現れたのである。
「麻衣、お茶」
いつもどおり、ドアを開けて麻衣に言うナル。
「はいはい。何がいいの?」
「何でもいい」
そう言って、ナルはまた所長室に戻った。
まったくもぅ〜とぼやきながら、麻衣は給湯室に行く。
しばらくすると麻衣が紅茶をいれて、所長室のドアをノックした。
「失礼しまーす。ナル、淹れたよ」
そう言うと、麻衣は所長室へと入っていった。
「ナル?ここに置いておくね」
麻衣の存在を気にしないかの如く、いつもどおり本を読みふけるナル。
麻衣がそう言って、カップを置く。
戻ろうと回れ右をしたところで、ナルに呼び止められた。
「麻衣」
「ん?何?」
ナルは立ち上がり麻衣の方に歩いてきた。
そうして麻衣の手を取った。
「どうした?この手」
麻衣の右手の人差し指から少し血が出ていた。
「あ、さっきちょっとやっちゃったの。舐めときゃ治るから大丈夫だって」
へらへら笑いながら麻衣が言う。
と、次の瞬間麻衣は思いっきり固まった。
ナルが麻衣の手を掴み、傷口をぺろりと舐めたのだ。
「な、ナル…??」
麻衣の顔は一気にゆでたこ状態になった。
鼓動がどんどん早くなる。
「消毒だけはしとけ」
しれっとした顔で言うと、ナルは麻衣の手を離した。
「う、うん。じゃあ、あとでカップ取りに来るね」
そう言うと麻衣はあわてて所長室を出た。
真っ赤な顔をして出てきた麻衣の姿に、安原は呼び止めた。
「谷山さん?どうしました??」
「………」
麻衣は返事をしない。上の空だった。
「谷山さん?」
「…は、はいっ!どうしたの?安原さん」
「いえ。あ、私もお茶をもらえますか?」
にっこりと安原が笑顔を向けると、麻衣は「はい!」といって給湯室に走っていった。
顔を真っ赤にした麻衣は、給湯室でさっきの出来事を思い出した。
ドキドキと早くなる鼓動。
ナルの行動に驚いた。
普段ならあんなことしない。
絶対にするはずがない。
……ナル?
――どうしてあんなことしたの?
……私、どうしたらいいかわかんないじゃないかぁ。
これじゃあ、まるで私…私……
……ジーンに会いたいよ……
シュンシュンと鳴るやかんを見つめ、その場に立ち尽くしていた。
「…ナルのバカ……」
その一言がただ頭の中で回っていた。